どこでも、楽しく、たくましく。

新築を建てたくなる前に知っておくべき、大事だけど営業マンは教えてくれない話。


まだまだ家づくりは先の話。
そう思っている人にこそ伝えたい話があります。
まだ考える時間がある。
でも、いざ考え始める時にはすでに選択肢が限られている場合もある。
だからこそ、今読んでほしいのです。



秋晴れの2018年10月頃、琵琶湖に近いとあるカフェで、「これからの時代の暮らしと家」というタイトルでトークイベントを開催しました。

ゲストには、東京から最近グッドデザイン賞をとったばかりの建築士、大田聡さんをお呼びしました。(横浜の高架下にあるトレーラー宿泊施設Tinysを設計して受賞されました。)

https://www.facebook.com/profile.php?id=100002607945322

なぜ滋賀と全く関係ない人を呼んだかというと、なるべく何にも縛られずに話をしてくれる人に色々聞いてみたかったからです。
どうしても、会社の看板を背負っていると、120%誠実になれないときもあるのが現実です。私も銀行員時代はそうでした。

だからこそ、ゲストが全く仕事をしない場所で、ゲストを知ってる人がいない場所で、話してもらいました。その内容の一部を、後日調査したデータなども追加してまとめています。

いずれ皆さんが家づくりを考える前に、頭の片隅に置いてもらえたら幸いです。



夢のマイホームは本当にそう?

イベントのゲストである建築士の大田さんは、新築を建てるのが仕事ですが、ここ数年、空き家問題の解決に力を入れています。現在、「AKIYA STOCK」という空き家のマッチングコミュニティを運営されています。https://www.facebook.com/AKIYA.STOCK/

その背景には、日本が抱える根深い「夢のマイホーム問題」がありました。

ある時、大田さんは人生の大先輩に空き家問題を指摘されます。当時、建築士でありながら空き家に関してあまり知識がなく、指摘されていろいろ勉強したそうです。

その中で知る衝撃的なデータの数々を目の前に、彼はこう思い始めました。

「このまま新築を建て続けていいのだろうか?」

「建築士という家を建てる職業だからこそ問われている気がしたんです。」と大田さんは話していました。彼は、そこから空き家問題について、有志による勉強会を始めたそうです。

これからのわが家について考える際に、まずは私たちがいる現状を把握することがスタートです。まずは基礎知識として、マイホームを取り巻く現状を知っていただきたいと思います。家に対する考え方が大きく変わるかもしれません。今回は特に、「人口・住宅数・世帯数」を切り口にみていきましょう。

まずは人口について。日本の総人口は昨年だけで22万7千人減少したそうです。(総務省:人口推計H29.10.1)

分かりやすく言うと、茨城県つくば市(23万7千)や佐賀県佐賀市(23万4千)、兵庫県宝塚市(22万5千)の人口が、我が国の人口減少数と同程度です。毎年そこそこの町と同じくらいの人が減っています。


(出典:国土交通省H29人口の将来推計)

では住宅の数について見ていきます。実際、家の数はどれくらいで推移しているのでしょうか。私が生まる前から、今でもずっと増え続けています。まさに右肩上がりという感じですね。


(出典:国土交通省H29「世帯数及び住宅戸数の推移」)

ということは、人口減少している中でも、それだけ家が建っているということになります。実は、去年だけでも94万戸もの新設住宅が建てられています。過去から見れば新築は減ってはいますが、それでも94万戸です。


(出典:国土交通省H29「新設住宅着工戸数の推移」)

もしかすると、一人世帯や核家族世帯の増加で、家の需要が高まっているから、人口減少でも住宅総数が増え続けているのだろうか。そう思って、世帯数と住宅総数とを比較してみました。


(出典:国土交通省H29「世帯数及び住宅戸数の推移」)

世帯数も毎年増加していますが、世帯数の16%以上も余分に家があるようです。理論上は、すでに住宅の数は十分足りていることが分かります。ただ、場所や住宅を選ばなければの話ですが。人口減少を考えれば、今後も家が余る状態は続いていきそうです。

日本の人口が減っていく中で、毎年変わらず沢山の家が建っていく・・・違和感がぬぐえません。

そうなると、何が起こるでしょうか。
人が住んでいない家が増えていくのです。
これがまさに、夢のマイホームの弊害であり、空き家問題であると言えます。


3件に1件が空き家という深刻な時代

では、実際空き家の数はどれくらいなのでしょうか。2013年時点で820万戸あります。総住宅数の13.5%です。大阪府の人口が882万人なので、日本の空き家を一か所に集約したら誰も住んでいない大阪府ができてしまいます。2033年には空き家率が30%を超え2000万戸を超えるとの予測もあります。自分の家の両隣のうちの1件は空き家ということになります。この数字を見て妙に気持ち悪さを感じるのは私だけではないはず。

改めて言いますが、すでに家は飽和状態なのに家は増えているのです。


(出典:NRI総住宅数・空き家数・空き家率の実績と予測結果 実績は総務省「住宅・土地統計調査」より。予測値はNRI。)

さらに、団塊の世代が平均寿命を迎え、空き家が爆発的に増え始める年が2025年と言われています。それでもやはり家を建てたいのか?これからわが家について考えようとしている人に、今一度考えてほしいと思います。

空き家問題では、どんどん増えていく空き家の対策も必要ですが、そもそも増やさないようにする対策も同時並行でしなければならないと思います。そもそも不用意に建てない予防策として、この記事を書いています。

自分の家が空き家になるのは、基本的に自分がこの世からいなくなってからの話。だから、自分でよく考えないと思わぬ人に迷惑をかけてしまう恐れがあります。

話は少し脱線しますが、空き家問題について少しイメージしやすい話をします。

あなたのご実家を想像してみてください。

とある田舎の一軒家。
あと20~30年後には誰が住んでいるでしょうか?多分親は平均寿命を迎えています。あなたやご兄弟が住んでいるでしょうか?

私の場合は3姉妹なので、誰も住んでいないでしょう。父親が長男であるので、仏壇もあります。空き家をそのまま維持するには年間数十万かかるとも言われています。

それは子供である私たちが負担することになるのですが、ポジティブに払えるものではありません。
だからと言って賃貸にできるかと言われても、場所や建物の状況からして、そんなに住みたい人がいるとも思えません。解体するにも助成金があったりするようですが、一時的に大きなお金が動きます。

その頃は自身の子供の教育資金などが一番かかるころでしょう。家をたたむのにお金をかけるなら、子どもの成長につながることにお金をかけたいのが正直なところです。しかしながら、その資金を親にあらかじめ準備しておいてもらう、なんて余裕はなさそうです。遠方に住んでいたらなおさらメンテナンスも大変です。
兄弟でどうするか話し合ったり、いろいろな手続きをしたり…考えるだけで胃のあたりがちくちくします。

親が元気なうちに家をどうするか話せたらまだ選択肢があるかもしれません。老人ホームでくらしたいから、家を売ってその費用を捻出したい、そんなケースも考えられます。でも、その時両親もいい年齢です。家を売るなんてけしからん!なんて聞く耳を持たずだったり、もし認知症だったら…。

そんな状況が、まもなく私たちに降りかかってきます。

そして、50年後くらいに、私たちの子供にも降りかかってきます。親としては、子どもにそんな手間をかけさせたくはないと思っているでしょう。少なくとも我が子に「面倒な問題ばかり残して!立つ鳥跡を濁さず、埋蔵金でも残していってよ!」て言われたらとても落ち込みます。

ここまで言うと、新築を建てるのが悪いことなのか!?と怒られそうですが、そういうことを言いたいのではありません。現状の問題点や、想定される今後の展開を見越したうえで、家族で話し合い、自分なりの決断をしてほしいということです。

ちなみに、大田さんの知り合いで、「棟下式」という、言わば家のお葬式のようなサービスをやっている方もいます。今後ニーズは増えていくでしょう。https://www.polus-green.net/muneoroshiki

思い出があるものを手放すのは精神的な壁が非常に高いのは明白です。だからこそ、安易には建ててほしくないのです。

話を戻しましょう。恐らくですが、家を建てることを本業としているたちは、こういう話は積極的にしないと思います。(今回のゲストはそういう意味でレアケースです)

普通に考えて、家を建てたい!と意気揚々と相談に行って、「本当に家を建てる必要があるんですか?」という話をされたら気分が悪いです。しかし、伝えないのも無責任だと思います。

日常においても、様々な問題点を理解したうえで決める決断と、よくわからずに決めた決断とでは、同じ決断でも、意味合いが異なります。きっと皆さんもそういう経験は少なからずあるのではないでしょうか。

だからこそ、「とりあえず家族もできたし家を建てようか!」という従来の『夢のマイホーム』的な思考をアップデートする必要があるのでは、という提案です。

「夢のマイホーム」は今の時代の最適解ではない

「夢のマイホーム」を取り巻く問題は家だけではありません。

お金の問題もあります。

仕事や働き方もいろいろ選べるようになってきました。
これは個人的な話ですが、私も何度か転職したり、フリーランス的に働いたりしながら割と自由に暮らしています。
一方で、自由な働き方を選んで、収入の問題にもぶちあたっています。自分の実力不足もありますが、転職せずに初めて働いた会社でずっと働いていた方が、貯金額だけで言えば高いという悲しい現実もあります。チャレンジして得たものも沢山ありますが、お金だけはなかなか増えない人もいるというのが現状です。奨学金の返済も夫婦でまだ10年あります。

わが家のケースですが、今後20~30年の収入が今より確実に上がることを前提にして、3千万の住宅ローンを組むという従来のよくある方法はおそらくしないと思います。転職可能性や、収入、実家の問題、まだまだ予測不可能なことが多すぎます。まだ答えが出ていない段階で、家や借入が固定されてしまうと身動きがとりにくくなります。ですから、現段階では中古で数百万の一軒家(しかも賃貸)が近場であったら考えてもいいかな、というくらいです。

ちなみに、世帯年収が世の中として減っている感覚があったのですが、そこまで大きな変化はありませんでした。子供いる世帯は平均700万…私がちゃんと週5くらいで稼がないと一人ではなかなか難しい金額です。なんだか落ち込むグラフです。しかし、この“平均”にはだまされやすい側面があります。

2つ目のグラフを比較してみましょう。世帯数の分布をみると、児童のいる世帯の一番のボリュームゾーンは500~700万円。平均が一番多い割合とは限らないのです。少し安心しますね。どのデータにおいても、平均が世の中の普通に思われがちですが、そうでもないことを知ってもらえれば幸いです。

よく家づくりの雑誌などにある、新築にかける金額や土地購入の金額の平均値などには騙されないようにしてください。元銀行員としても、自分たちの身の丈に合った家づくりが大事、と言いたいです。


(出典:厚生労働省H29国民生活基礎調査 各種世帯の1世帯当たり平均所得金額の年次推移)

(出典:厚生労働省H29国民生活基礎調査 各種世帯別にみた所得金額階級別世帯数の分布及び中央値)

さらに、老後の年金がどのくらいもらえるのかわからない問題があります。実際、受給時に十分だと思える金額がもらえるのかはわかりません。皆さんもなんとか自分で資産を増やそうと努力されていることと思います。

しかし、月10万の住宅ローンを払いながら…教育資金を貯めながら…老後まで考えるなんて発狂しそうです。上記のグラフを見る限りは、現在の高齢世帯は年間200~300万ほどの収入はあるそうですが、今後どうなることやら。

世帯構造の変化も、家づくりを考える際の問題点の一つです。

ワンオペやイクメンなどのワードがこんなに出てきたのも、核家族世帯が増えている背景が大いにあります。


(出典:厚生労働省H29国民生活基礎調査 世帯構造別、世帯類型別世帯数及び平均世帯人員の年次推移)


3世代で住んで、おじいちゃんたちに子供を見てもらっていた時から、夫婦だけで仕事と家庭を回さないといけなくなって、疲弊していく。そしてそれを解消するサービス(家事代行や子供の預かりなど)が生まれ成長していく。時代が変化したと言えばそれまでですが、その過程で切り捨てられた選択肢をもう一度見直すのも必要かなという気がしています。

仮に、3世代で家をリフォームして大家族で住むことができたら、金銭的負担や家事、子育ての問題も結構解消すると思います。
また、現代版の大家族として、神戸で新たに取り組まれている事例もあります。個人的には子どものいる身として、とても魅力的です。
これ以外にも、シェアハウスで子育てをしながら暮らすという話をちらほら聞きます。

やはり、核家族で共働き、そして子育て…というのがそもそも人の許容量を超えていて、解決策を求められている中での事例という気がしてなりません。

いろいろ言いましたが、今の世の中はスクラップ&ビルドが大前提で経済が成り立っていると言っても過言ではありません。作ったものを解体し、また新しく作る。ある意味それが私たちの生活を豊かにしているとも言えるかもしれません。

だからこそ、何が正解という話ではなく、現状を理解したうえで、どうするのがいいのだろうかというのを考えるというのが求められています。

今の家のままではだめなのか?広さはどれくらいあれば十分なのか?
新築である必要性はあるのか?中古ではだめなのか?
実家はどうするのか?自分たちだけで住むのか?
自分たちが住まなくなった後はどうするのか?

そんな話を、家を建てたくなる前に、ぜひパートナーの人と話し合ってほしいと思います。

まずは、家づくりについて具体的な話に入る前に、知っておいてほしいことをお伝えしました。これらを踏まえたうえで、次の段階として、私たちにはどんな選択肢があって、どう選んで行ったらいいのだろう…という問題について話し合っていくことが必要です。

今後、この記事に書いた問題に対する、家を作る会社(地元工務店など)の認識などについても取材するつもりです。
そして、「わが家について今はどんな選択肢がある?家づくりを考えるポイントは?」についても調査したいと思っています。

by
1987年生まれ 山形県出身・滋賀県在住 どこに移動しても、楽しくたくましく暮らすのが目標。そのために、主に仕事やプライベート、心地よい居場所作りをテーマに研究中。
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